近年、人工知能(AI)による文章や画像、音楽などのコンテンツ生成能力が飛躍的に進歩しています。
AIが生成した作品の取り扱いについては、著作権の観点から様々な議論がなされています。
本記事ではAIと著作権に関する基礎知識を体系的に解説することで、AIが生成した作品の適切な取り扱い方を理解できるようになることを目指しています。
AIと著作権の基本
AIで作られた作品の著作権をはじめ、基本的な情報を以下にまとめました。
(1) 著作物とは
著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術、音楽の範疇に属する作品をいいます。
著作物に該当するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
<要件1> 人間の思想・感情の創作的表現であること
<要件2> その表現が何らかの形態で現れていること
(2) 著作権の種類
著作権には、次の2種類があります。
著作者人格権
著作物を公表するかどうかを決める権利や、著作者名を表示する権利など
著作権(財産権)
複製権、公衆送信権、上映権、口述権など
(3) AIが生成した作品の著作権
AIが生成した作品については、現行法上著作物に該当するか明確な基準が定まっていません。
人間の関与の程度や、作品の創作性の有無などから、個別に判断されることとなります。
AIが生成した作品の著作権の扱い
AIが生成した作品でも、著作権の取扱には気をつけましょう。
以下で具体的な扱い方法を紹介しています。
(1) AIが独自に生成した作品の扱い
AIが独自に生成した作品については、現行法上では「著作物」に該当しないと解釈されています。
つまり、AI自身には著作権が発生しないため、その作品は著作権法上の保護対象とはなりません。
これは、著作権法第2条1項にある「人間の創作」という要件を、AIは満たさないと考えられているためです。
AI自体には創作性がないと判断されるのが一般的です。
したがって、AIが独自に生成した作品は、誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」と位置づけられます。
ただし、注意が必要なのは次の2点です。
-
AIの生成過程で既存の著作物を無断で利用していた場合
-
AIの設計や学習データに人間の創作性が介在している場合
このような場合は、別の観点から著作権の対象となる可能性があります。
(2) 既存の著作物を学習したAIが生成した作品の扱い
多くのAIは、学習のために既存の著作物を使用しています。
このような既存の著作物を学習したAIが生成した作品の著作権は、複雑な問題となります。
原則として、AIが生成した作品そのものには新しい著作権は発生しません。
しかし、そこに既存の著作物の一部が含まれている場合は、その部分について著作権侵害の恐れがあります。
具体例をあげると、以下のようなケースが考えられます。
作品の種類 |
著作権侵害リスクの有無 |
---|---|
文章の一部が既存作品と酷似 |
〇 |
画像の一部が既存作品と同一 |
〇 |
音楽の一部が既存作品と類似 |
〇 |
新規の独創的な作品 |
× |
このように、既存の著作物を学習したAIが生成した作品には、著作権侵害のリスクが潜んでいます。
そのため、AIの開発者や利用者は、十分な注意が必要となります。
(3) 人間とAIが協働して生成した作品の扱い
人間とAIが協働して作品を生成した場合、その著作権はどのように扱われるのでしょうか。
基本的には、人間が最終的に編集や加工を施した部分について著作権が発生します。
つまり、人間による「創作性のある表現」が著作物として保護される可能性があります。
一方で、AIが生成した素材の部分については、AIに著作権は発生しません。
ただし、その素材自体に既存の著作物が含まれていた場合は、その著作権者の権利を侵害するリスクがあります。
このように、人間とAIが協働した作品の著作権は、人間とAIがそれぞれ関与した部分に応じて判断されます。
人間部分に創作性があれば著作権が発生し、AIが生成した部分は著作権の対象にはなりませんが、既存の著作権を侵害していないかチェックが必要になります。
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AI生成作品の著作権侵害リスク
AI生成作品には、様々な著作権リスクがあります。
利用する前に、どのようなリスクがあるのか知っておきましょう。
(1) 類似性と依拠性
著作権侵害が成立するためには、類似性と依拠性の両方が認められる必要があります。
類似性とは、AIが生成した作品と既存の著作物との間に、実質的な類似があることを意味します。
実質的な類似があるかどうかは、作品全体の印象から判断されます。
たとえば、AIが生成した小説のストーリーや登場人物、表現が、既存の小説と酷似していれば、類似性が認められる可能性があります。
一方、依拠性とは、AIが既存の著作物を参照し、それに依拠して作品を生成したことを意味します。
AIが生成した作品に既存の著作物の影響が見られる場合、依拠性が認められる可能性があります。
類似性だけでは著作権侵害は成立しません。
AIが生成した作品に既存の著作物と酷似する部分があっても、それがたまたま偶然生じたものであれば、依拠性がないため、著作権侵害には該当しません。
逆に、AIが既存の著作物を参照して作品を生成したが、その結果的な作品に類似性がなければ、やはり著作権侵害は成立しません。
つまり、類似性と依拠性の両方が認められなければ、著作権侵害とはみなされないのです。
(2) 具体的な侵害事例
AIが生成した作品と既存の著作物との類似性が高く、依拠性が認められる場合には著作権侵害となるリスクがあります。
代表的な侵害事例としては、以下のようなケースが挙げられます。
事例1
AIに小説のデータを大量に学習させ、新たな小説を生成させた場合 →既存の小説から特定の表現を無断で流用していれば、複製権の侵害になる可能性があります。
事例2
AIに作詞のデータを学習させ、新しい歌詞を生成させた場合 →既存の歌詞から旋律や歌詞の一部を無断で使用していれば、同一性保持権の侵害となる恐れがあります。
事例3
AIに画家の作品を学習させ、同じスタイルの絵画を生成した場合
→既存の作品とのスタイルの類似性が高ければ、同一性保持権の侵害に問われかねません。
著作権侵害かどうかは、具体的な作品の類似性次第ですが、AIが学習したデータに依拠している場合は要注意です。
(3) 侵害リスク回避の対策
AIが生成した作品の著作権侵害リスクを回避するためには、以下の対策が重要です。
データセットの適切な構築
AIに学習させるデータセットには、著作権フリーの作品のみを含めるようにします。
また、データセットに含まれる作品についても、その利用が許諾されていることを確認する必要があります。
出力結果の確認
AIが生成した作品について、既存の著作物との類似性がないかを確認します。
具体的には以下のようなツールを活用します。
・類似度検知ツール
・人的確認
免責事項の明記
AIが生成した作品には、以下のような免責事項を明記しておくことが推奨されます。
「本作品はAIによって生成されたものです。
既存の著作物の無断利用は意図しておらず、万が一そのような事態が生じた場合には、削除等の対応を行います。」
このように、AIが生成した作品の著作権侵害リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが肝要です。
今後の法的対応の動向
今後、AI生成にはどのような可能性があるのでしょうか。
課題と展望を含め、以下でご紹介いたします。
(1) 文化審議会の検討状況
文化審議会における検討状況 文化審議会は、AIが生成した作品の著作権の扱いについて検討を重ねています。
2023年3月の中間まとめでは、以下の方向性を示しました。
AIが独自に生成した作品は、著作物性は認められない ・人間が作品の発案や表現に関与した場合は、著作物性が認められる可能性があります。
(2) 各国の動向
米国特許商標庁は2022年に、AIが単独で生成した作品には著作権が認められないと発表しました。
欧州連合(EU)でも同様の見解が示されています。
一方、英国では人工知能の著作権保護に向けた法改正を検討中です。
(3) 今後の課題と展望
AIの発達に伴い、人間とAIの協働による創作が増加すると考えられます。
そのため、人間とAIの関与の度合いを的確に評価し、著作物性を判断するルールが重要となります。
また、AIによる既存作品の無断
まとめ
AIと著作権の関係は複雑で、一概に言えるものではありません。
しかし、近年のAI技術の進展を踏まえると、法的対応を検討する必要があります。
AI生成作品の種類 |
著作権の帰属 |
---|---|
AIが独自に生成 |
人工知能には権利なし |
既存作品を学習 |
学習データの権利者に権利あり |
人間とAI協働 |
人間に権利あり |
このように、AI生成作品の著作権は、その生成プロセスによって異なります。
今後、文化審議会の検討を踏まえ、AIと著作権に関する法的整備が進むと考えられます。
一方で、AIによる著作権侵害のリスクも高まっています。
類似性や依拠性の判断は難しく、具体的な事例の集積が待たれます。
権利者や開発者は、十分な注意を払う必要があります。
このように、AIと著作権は新たな課題ですが、技術と法制度の調和を図りながら、適切な対応を検討していく必要があります。